18.1 作用機序
チカグレロルは、アデノシン二リン酸(ADP)受容体であるP2Y12受容体に対する選択的且つ可逆的な拮抗薬であり、ADP誘発血小板凝集を阻害する36)。チカグレロルは、P2Y12受容体のADP結合部位とは異なる部位に結合し、血小板P2Y12受容体のシグナル伝達を阻害する36),37)。また、チカグレロルは受動拡散型ヌクレオシドトランスポーター-1(ENT-1)を阻害し、局所アデノシン濃度を上昇させる作用を有する。チカグレロルのENT-1阻害によりアデノシン半減期が延長し、アデノシン局所濃度が上昇することで局所におけるアデノシン作用が増強する可能性がある38),39),40)。
18.2 血小板凝集阻害作用
- 18.2.1In vitro試験
チカグレロルは、ヒト洗浄血小板、多血小板血漿及び全血において、ADP誘発血小板凝集を強力に阻害した41),42),43)。
- 18.2.2In vivo試験
イヌの大腿動脈周期的血栓形成モデルにおいて、チカグレロルはin vivoでの血栓形成及びex vivoで測定したADP誘発血小板凝集を阻害した44),45)。
- 18.2.3健康被験者におけるチカグレロルの血小板凝集阻害作用
健康被験者を対象とした単回漸増投与試験において、日本人及び白人健康被験者各20例にチカグレロル50~600mg注1)又はプラセボを単回経口投与し、IPAを日本人と白人被験者で比較した。IPAは、日本人及び白人被験者ともに、投与2時間後に50mg投与では約80%、100mg以上の投与では90%超であり、投与4時間後には100mg以上の投与で95%以上の最大値に達した5)。
健康被験者を対象とした反復投与試験において、日本人及び白人健康被験者各36例にチカグレロル100mg注1)、チカグレロル300mg注1)又はプラセボを1日2回反復経口投与(ただし、白人被験者の1例はチカグレロル100mgの初回投与のみで試験を中止)した。チカグレロル100mg及び300mg単回投与後、IPAが最大値に達するまでの時間の中央値は、日本人被験者で2時間(100mg及び300mg)、白人被験者で4時間(100mg)及び2時間(300mg)であった。100mg単回投与後のIPAの最大値の平均は日本人被験者で99%、白人被験者で87%、300mg単回投与後では日本人及び白人被験者ともにほぼ100%に達した。100mg反復投与後の定常状態におけるIPAの最大値の平均は、日本人被験者で99%、白人被験者で85%、300mg反復投与後では日本人被験者で100%、白人被験者で97%であった5)。
- 18.2.4クロピドグレル反応例及び非反応例におけるチカグレロルの血小板凝集阻害作用
クロピドグレル反応例又は非反応例であることが事前に確認された安定期の冠動脈疾患患者98例を対象とした第II相試験で、アスピリンによる基礎療法下でチカグレロルの血小板凝集阻害作用をクロピドグレルと比較した。患者をクロピドグレル群(初回負荷用量600mg投与後75mg1日1回を2週間投与)又はチカグレロル群(初回負荷用量180mg投与後、90mg1日2回を2週間投与)に無作為割付けし、ウォッシュアウト期間なしの2期クロスオーバーのデザインとした。チカグレロルの体内動態はクロピドグレル反応例と非反応例で類似しており、チカグレロルをクロピドグレル投与中止後24時間に投与したとき、クロピドグレルの残留濃度による影響を受けなかった。クロピドグレル非反応例と反応例のいずれにおいてもチカグレロル投与によるIPAは高いことが示された(投与後4~8時間で74~96%)46)。
注1)本剤の承認用量は初回用量として180mg、維持用量として60mg~90mg 1日2回である。
16.1 血中濃度
- 16.1.1単回投与
チカグレロル90mgを日本人健康成人男性12名に単回経口投与したとき、チカグレロル及び主代謝物AR-C124910XX(P2Y12受容体拮抗作用を有する)の薬物動態パラメータ及び血漿中濃度推移は以下のとおりであった4)。
| パラメータ |
チカグレロル |
AR-C124910XX |
| Cmax(ng/mL) |
703(26.2%) |
263(20.2%) |
| tmax(h) |
2.0(1.0, 4.0) |
2.5(1.5, 4.0) |
| AUC(ng・h/mL) |
3720(29.8%) |
2290(20.1%) |
| t1/2(h) |
8.7(24.0%) |
10.0(30.0%) |
tmaxのみ中央値及び範囲で示した。
図1 日本人健康成人男性にチカグレロル90mgを単回経口投与したときのチカグレロル及び代謝物AR-C124910XXの血漿中濃度推移(n=12、算術平均及び標準偏差)
- 16.1.2反復投与
日本人健康成人男性各15例及び14例にそれぞれチカグレロル100mg注)及び300mg注)を1日2回反復投与したときのチカグレロルの累積係数はそれぞれ1.4及び1.8であり、消失半減期から類推される予測値と概ね一致していた。また、AR-C124910XXの累積係数についても予測値と一致し、それぞれ1.9及び2.7であった5)。
16.2 吸収
- 16.2.1バイオアベイラビリティ
チカグレロルの絶対バイオアベイラビリティの平均は約36%(範囲25.4~64.0%)であった6)(外国人データ)。チカグレロル及びAR-C124910XXのCmax及びAUCは用量30~1,260mg注)の範囲で概ね用量に比例して増加した7),8),9)。チカグレロル及びAR-C124910XXはP-糖蛋白質の基質10)であり、また弱い阻害剤でもある11)。
- 16.2.2食事の影響
高脂肪食の摂取はチカグレロルのCmax或いはAR-C124910XXのAUCに影響を及ぼさなかったが、チカグレロルのAUCを21%増加させ、AR-C124910XXのCmaxを22%低下させた。これら軽微な変化による臨床的意義は少ないと考えられた12)(外国人データ)。
16.3 分布
チカグレロルの定常状態分布容積は87.5Lであった6)(外国人データ)。チカグレロル及びAR-C124910XXのヒト血漿中の蛋白結合率(in vitro)はそれぞれ99.4%及び99.9%と高かった13)。
16.4 代謝
チカグレロルは主に肝代謝によって血中より消失する。CYP3Aはチカグレロルの代謝とAR-C124910XXの形成に関わる主要な代謝酵素である14)。また、チカグレロル及びAR-C124910XXとCYP3Aの基質との相互作用は基質によって異なり、活性化又は阻害作用を示す15)。
チカグレロルの主代謝物はAR-C124910XXであり、血小板を用いたin vitroのP2Y12受容体結合試験において活性を示した。AR-C124910XXの全身曝露量はチカグレロルで認められる全身曝露量の概ね30~40%であった8)(外国人データ)。
16.5 排泄
放射能標識したチカグレロルを投与したとき、平均で約84%の放射能が回収され、糞中には57.8%及び尿中には26.5%が回収された。尿中のチカグレロルとAR-C124910XXの回収率はともに投与された放射能の1%未満であった16)。AR-C124910XXの主要な消失経路は胆汁排泄であった(外国人データ)。
16.6 特定の背景を有する患者
- 16.6.1女性
チカグレロル及びAR-C124910XXの曝露量は男性と比較して女性で高く、チカグレロルのCmax及びAUCはそれぞれ52%及び37%高く、AR-C124910XXのCmax及びAUCはそれぞれ56%及び55%高かった17)(外国人データ)。
- 16.6.2高齢者
高齢者におけるチカグレロル及びAR-C124910XXのCmaxは若年者と比べてそれぞれ約60%高く、AUCでは約50%高かった17)(外国人データ)。
- 16.6.3腎機能障害者
重度の腎機能障害者(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)10名にチカグレロル180mgを経口投与したとき、腎機能が正常な被験者(クレアチニンクリアランス80L/min以上)と比べ、重度の腎機能障害者におけるチカグレロルのAUCは約20%低く、AR-C124910XXのAUCは約17%高かった。チカグレロルの血小板凝集阻害活性は腎機能障害者と腎機能が正常な被験者とで類似していた18)(外国人データ)。
血液透析が必要な末期腎不全(ESRD)患者13名にチカグレロル90mgを経口投与したとき、腎機能が正常な被験者(クレアチニンクリアランス90mL/min以上)と比べ、非透析時におけるチカグレロルのAUC及びCmaxはそれぞれ38%及び51%高く、AR-C124910XXのAUC及びCmaxはそれぞれ13%及び17%高かった。透析直前に投与したときの曝露量は非透析時と同程度であり、血液透析によってチカグレロル及びAR-C124910XXが除去されないことが示された。ESRD患者における本剤の血小板凝集阻害活性は、腎機能が正常な被験者と類似していた19)(外国人データ)。
- 16.6.4肝機能障害者
軽度の肝機能障害者(Child-pugh分類A)10例にチカグレロル90mgを経口投与したとき、軽度肝障害者におけるチカグレロルのCmax及びAUCは健康被験者と比べてそれぞれ12%及び23%高かったが、チカグレロルの血小板凝集阻害作用は類似していた20)(外国人データ)。
16.7 薬物相互作用
- 16.7.1ケトコナゾール
健康成人男女14例にチカグレロル90mgをケトコナゾール200mgと併用投与したとき、チカグレロルのCmax及びAUCはそれぞれ135%及び632%増加した。AR-C124910XXのCmax及びAUCはそれぞれ89%及び56%低下した21)(外国人データ)。
- 16.7.2リファンピシン
健康成人男女14例にチカグレロル180mgをリファンピシン600mgと併用投与したとき、チカグレロルのCmax及びAUCはそれぞれ73%及び86%低下した。AR-C124910XXのCmaxは変化せず、AUCは46%低下した22)(外国人データ)。
- 16.7.3ジルチアゼム
健康成人男女17例にチカグレロル90mgをジルチアゼム240mgと併用投与したとき、チカグレロルのCmax及びAUCはそれぞれ69%及び174%増加した。AR-C124910XXのCmaxは38%減少したが、AUCには変化は認められなかった。ジルチアゼムの血漿中濃度に対してチカグレロル併用投与の影響は認められなかった21)(外国人データ)。
- 16.7.4シンバスタチン
健康成人男女20例にチカグレロル180mgとシンバスタチン80mgを併用投与したとき、シンバスタチンのCmax及びAUCはそれぞれ81%及び56%増加し、なかには2~3倍まで増加した症例も認められた23)(外国人データ)。
- 16.7.5シクロスポリン
健康成人男性24例にチカグレロル180mgとシクロスポリン600mgを併用投与したとき、チカグレロルのCmax及びAUCはそれぞれ130%及び183%増加した。AR-C124910XXのCmaxは15%減少し、AUCは32.5%増加した。シクロスポリンの血漿中濃度に影響は認められなかった24)(外国人データ)。
- 16.7.6ジゴキシン
健康成人男女18例にチカグレロル400mg注)とジゴキシン0.25mgと併用投与したとき、ジゴキシンのCmax及びAUCはそれぞれ75%及び28%増加した25)(外国人データ)。
- 16.7.7モルヒネ
モルヒネを投与された患者においてチカグレロルの吸収が遅延し、チカグレロル及びAR-C124910XXのAUCはそれぞれ36%及び37%低下した26)(外国人データ)。
- 16.7.8ヘパリン
健康成人男女27例にチカグレロル180mgの経口投与2時間後にヘパリン100IU/kgを静脈内投与したとき、チカグレロル及びAR-C124910XXの血漿中濃度に影響は認められず、血小板凝集阻害(IPA〔最終凝集率を測定、以下同様〕)には臨床上問題となる影響は認められなかった。またaPTT及びACTにより評価したヘパリンの薬理作用に影響を及ぼさなかった27)(外国人データ)。
- 16.7.9ミダゾラム
健康成人男女26例にチカグレロル400mg注)とミダゾラム7.5mgを併用投与したとき、ミダゾラムのCmax及びAUCはそれぞれ27%及び32%低下した。チカグレロル及びAR-C124910XXの血漿中濃度に影響は認められなかった28)(外国人データ)。
- 16.7.10アトルバスタチン
健康成人男女21例にチカグレロル90mgとアトルバスタチン80mgを併用投与したとき、アトルバスタチンアシドのCmax及びAUCはそれぞれ23%及び36%増加した23)(外国人データ)。
-
16.7.11ロスバスタチン健康成人13例にロスバスタチン10mgを単独あるいはチカグレロル90mg1日2回と併用投与したところ、ロスバスタチン10mgのCmaxとAUCinfは、チカグレロル存在下でそれぞれ2.4倍および2.3倍に増加した。同様に、別の健康成人13例にロスバスタチン20mgを単独あるいはチカグレロルと併用投与したところ、ロスバスタチン20mgのCmaxとAUCinfはチカグレロル存在下でそれぞれ2.6倍および2.3倍に増加した(外国人データ)。
-
16.7.12トルブタミド
健康成人男女21例にチカグレロル180mgとトルブタミド500mgを併用投与したとき、トルブタミド及び代謝物である4-水酸化トルブタミドの血漿中濃度に影響は認められなかった。また、チカグレロル及びAR-C124910XXの血漿中濃度にも影響は認められなかった29)(外国人データ)。
- 16.7.13アスピリン
健康成人男女13例にチカグレロル50mg注)或いは200mg注)とともにアスピリン300mgを併用投与したとき、チカグレロル及びAR-C124910XXの血漿中濃度に影響は認められなかった。ADP誘発IPAは併用投与の影響を受けなかったが、コラーゲン誘発IPAを増加させた30)(外国人データ)。
- 16.7.14エノキサパリン
健康成人男女26例にチカグレロル180mgの経口投与2時間後にエノキサパリン1mg/kgを皮下投与したとき、チカグレロル及びAR-C124910XXの血漿中濃度に影響は認められず、IPAにも影響は認められなかった。エノキサパリンの薬理作用である活性化第Xa因子活性阻害にも違いは認められなかった27)(外国人データ)。
- 16.7.15経口避妊薬
健康成人女性22例にチカグレロル90mgとともにレボノルゲストレル0.15mg及びエチニルエストラジオール0.03mgを併用投与したとき、エチニルエストラジオールの曝露量は約20%増加したが、レボノルゲストレルの血漿中濃度に影響は認められなかった31)(外国人データ)。
- 16.7.16デスモプレシン
健康成人男女18例にチカグレロル180mgを経口投与した2時間後にデスモプレシン0.3µg/kgを静脈内投与したとき、チカグレロル及びデスモプレシンの血漿中濃度に影響は認められなかった。デスモプレシンとチカグレロルとの併用投与はIPAに影響を及ぼさなかったものの、PFA-100で評価した止血作用を有意に低下させた32)(外国人データ)。
注)本剤の承認用量は初回用量として180mg、維持用量として60mg~90mg1日2回である。