Clinical snapshot

トリセノックス点滴静注12mg

三酸化二ヒ素注射液

添付文書改訂 2023年11月01日

【警告】

  1. 1.1本剤による治療は危険性を伴うため、原則として、投与期間中は患者を入院環境で医師の管理下に置くこと。また、緊急医療体制の整備された医療機関において白血病(特に急性前骨髄球性白血病(APL))の治療に十分な知識と経験を持つ医師のもとで治療を行うこと。

  2. 1.2本剤はQT延長、完全房室ブロック等の不整脈を起こすことがある。QT延長は致命的となりうるtorsade de pointes(TdP)タイプの心室性不整脈を引き起こすことがあるので失神や頻脈等の不整脈が認められた場合には、休薬し、症状によっては投与中止も考慮に入れること。投与開始前には12誘導心電図を実施し、血清電解質(カリウム、カルシウム、マグネシウム)及びクレアチニンについて検査すること。電解質異常が認められている場合には是正し、QT延長を来す併用薬剤の投与を避けること。本剤投与中は12誘導心電図を最低週2回実施し、更に心電図モニター等による監視も考慮すること。

  3. 1.3本剤はAPL分化症候群(APL differentiation syndrome)と呼ばれるレチノイン酸症候群と類似した副作用が発現し、致死的な転帰をたどることがあるので、十分な経過観察を行うこと。このような症状があらわれた場合には休薬し、副腎皮質ホルモン剤のパルス療法等の適切な処置を行うこと。

  4. 1.4本剤使用にあたっては、「2.禁忌」、「8.重要な基本的注意」及び「9.特定の背景を有する患者に関する注意」に十分留意し、慎重に患者を選択すること。

【禁忌】(次の患者には投与しないこと)

  1. 2.1ヒ素に対して過敏症の既往歴のある患者

  2. 2.2妊婦又は妊娠している可能性のある女性

効能・効果

再発又は難治性の急性前骨髄球性白血病

用法・用量

通常、三酸化二ヒ素として、0.15mg/kgを5%ブドウ糖液あるいは生理食塩液に混合して100~250mLとし、1~2時間かけて投与する。 (1)寛解導入療法:骨髄寛解が得られるまで1日1回静脈内投与する。合計の投与回数は60回を超えないこと。 (2)寛解後療法:寛解が得られた場合には、寛解導入終了後3~6週間後に開始する。5週間の間に1日1回、計25回静脈内投与する。

使用上の注意

  1. 8.1本剤の投与に際しては、頻回に患者の状態を観察し、生化学的検査(電解質等)、血液学的検査及び血液凝固能検査は寛解導入療法では最低週2回、寛解後療法では最低週1回実施すること。臨床状態が不安定な患者には更に頻回行うこと。

  2. 8.2本剤はQT延長、完全房室ブロック等の不整脈を引き起こすことがあり、QT延長は致命的となりうるtorsade de pointes(TdP)タイプの心室性不整脈を引き起こすことがある。TdPの危険因子は、QT延長の程度、QT延長を起こす薬剤の併用、TdPの既往、潜在するQT延長、うっ血性心不全、虚血性心疾患、カリウム排泄型利尿薬の投与、低カリウム血症や低マグネシウム血症等である。したがって、本剤による治療に際しては以下の点に留意し、心電図検査及び血清電解質検査等を行い、異常が認められた場合には、適切な処置を行うこと。なお、心電図検査での適切な読影や異常時の処置法については循環器専門医の助言を得ることが望ましい。

  • 治療開始前:12誘導心電図を実施し、血清電解質(カリウム、カルシウム、マグネシウム)及びクレアチニンについて検査すること。電解質異常が既に認められている場合には是正し、QT延長をきたす併用薬剤の投与を避けること。それでも500msec以上のQTc間隔が認められた場合は、本剤による治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を開始すること。

  • 治療中:12誘導心電図を最低週2回実施し、更に心電図モニター等による監視も考慮した上で、カリウム濃度を4mEq/L以上、マグネシウム濃度を1.8mg/dL以上に維持すること。

  1. 8.3急性前骨髄球性白血病に併発する播種性血管内凝固症候群(DIC)では、線溶活性亢進を伴う致命的な出血傾向(脳出血、肺出血等)が報告されている。本剤投与中にこのような症状があらわれた場合には、血小板輸血等の適切な処置を行うこと。また、本剤投与中に急激な白血球・芽球・前骨髄球の増加に伴って、DICの悪化が報告されており、このような症状があらわれた場合には、適切な処置を行うこと。

  2. 8.4本剤は肝機能異常を起こすことがあるので、肝機能検査を投与前、投与中は定期的に行い、異常が認められた場合には休薬し、適切な処置を行うこと。

  3. 8.5本剤は血糖値の上昇を起こすことがあるので、検査を投与前、投与中は定期的に行い、異常が認められた場合には、適切な処置を行うこと。

  4. 8.6神経障害は無機ヒ素の長期曝露による毒性として知られている1)。本剤は錯感覚、感覚減退等の神経障害を起こすことがあるので、観察を十分に行い、症状が重度な場合には、休薬、投与中止等の適切な処置を行うこと。

9.1 合併症・既往歴等のある患者

  1. 9.1.1QT延長の既往歴のある患者、低カリウム血症又は低マグネシウム血症、心疾患(不整脈、虚血性心疾患等)のある患者

QT延長の危険性が増大する。

  1. 9.1.2心疾患(心筋梗塞、心筋障害等)又はその既往歴のある患者

症状が悪化するおそれがある。

9.2 腎機能障害患者

排泄機能の低下により、本剤の体内濃度が上昇する可能性がある。

9.3 肝機能障害患者

代謝機能の低下により、本剤の体内濃度が上昇する可能性がある。

9.4 生殖能を有する者

  1. 9.4.1*女性患者については使用上の注意を厳守し、次の点に留意すること。

  2. (1)投与開始にあたっては、妊娠していないことを確認すること。

  3. (2)*妊娠する可能性のある女性に対しては投与しないことを原則とする。やむを得ず投与する場合には、妊娠の維持、胎児の発育等に障害を与える可能性があることを十分に説明すること。また、本剤投与中及び最終投与後7ヵ月間において避妊する必要性及び適切な避妊法について説明すること。

  4. (3)投与中に妊娠が確認された場合又は疑われた場合には直ちに投与を中止すること。

  5. 9.4.2*男性には、本剤投与中及び最終投与後4ヵ月間においてバリア法(コンドーム)を用いて避妊する必要性について説明すること。

9.5 妊婦

妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。動物実験で催奇形作用を示唆する所見が認められており2)、胎児等への影響が疑われる。また、無機ヒ素は胎盤通過性を有し、胚吸収の増加、神経管異常、無眼球症、小眼球症が認められている。

9.6 授乳婦

*本剤投与中及び最終投与後一定期間は授乳を避けさせること。ヒ素は、乳汁中に移行するため授乳中の乳児に対する重篤な副作用があらわれるおそれがある。

9.7 小児等

小児等を対象とした臨床試験は実施していない。

9.8 高齢者

患者の状況を観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下していることが多く、副作用があらわれやすい。

相互作用

10.2 併用注意(併用に注意すること)

薬剤名等 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
QT延長を起こすことが知られている薬剤
• ドロペリドール
• 抗精神病薬• クロルプロマジン、ハロペリドール、ピモジド、チオリダジン等
• 抗うつ薬• イミプラミン等
• 抗不整脈薬• アミオダロン、ベプリジル、ジソピラミド、プロカインアミド、キニジン、ソタロール等
• フロセミド
• プロブコール
• ファモチジン
• プロピベリン
• 消化管運動亢進薬• シサプリド、ドンペリドン等
• 抗菌薬• クラリスロマイシン、エリスロマイシン、スパルフロキサシン等
• 抗真菌薬• フルコナゾール等
• ペンタミジン
• 等
QT延長、心室性不整脈(TdPを含む)を起こすおそれがある。 本剤及びこれらの薬剤はいずれもQT延長あるいは心室性不整脈(TdPを含む)を起こすことがある。
利尿薬
• トリクロルメチアジド等アムホテリシンB
電解質異常を引き起こす。 本剤及びこれらの薬剤はいずれもQT延長の原因となる電解質異常を起こすことがある。

副作用

その他の副作用

副作用名 頻度
ALP増加 5%以上
ALT増加(30.3%) 5%以上
APTT延長 頻度不明
APTT短縮 頻度不明
AST増加(24.0%) 5%以上
BUN増加 頻度不明
BUN減少 頻度不明
CRP増加(11.0%) 5%以上
FDP増加 頻度不明
LDH増加(10.8%) 5%以上
γ-GTP増加 5%以上
うつ病 頻度不明
うっ血性心不全 頻度不明
ケトアシドーシス 頻度不明
そう痒性皮疹 頻度不明
そう痒症 頻度不明
トンネル状視野 頻度不明
上気道感染 頻度不明
上腹部痛 頻度不明
下痢 頻度不明
不安 頻度不明
不快気分 頻度不明
不整脈 頻度不明
不眠症 頻度不明
中耳滲出液 頻度不明
乏尿 頻度不明
低アルブミン血症 頻度不明
低カリウム血症 5%以上
低カルシウム血症 頻度不明
低蛋白血症 頻度不明
低血圧 頻度不明
低血糖症 頻度不明
低酸素症 頻度不明
体重増加 頻度不明
体重減少 頻度不明
便失禁 頻度不明
便秘 頻度不明
倦怠感 頻度不明
剥脱性皮膚炎 頻度不明
副鼻腔炎 頻度不明
労作性呼吸困難 頻度不明
動悸 頻度不明
単純ヘルペス 頻度不明
反射減弱 頻度不明
口内乾燥 頻度不明
口唇乾燥 頻度不明
口唇潰瘍 頻度不明
味覚異常 頻度不明
呼吸困難 頻度不明
呼吸困難増悪 頻度不明
咳嗽 頻度不明
咽喉頭炎 頻度不明
咽喉頭疼痛 頻度不明
喘鳴音 頻度不明
嘔吐 頻度不明
四肢痛 頻度不明
多汗症 頻度不明
好中球減少 5%以上
尿中蛋白陽性 頻度不明
局所性表皮剥脱 頻度不明
局所腫脹 頻度不明
帯状疱疹 頻度不明
徐脈 頻度不明
心嚢液貯留 頻度不明
心筋症 頻度不明
心膜炎 頻度不明
心電図QT補正間隔延長 頻度不明
心電図異常 頻度不明
悪寒 頻度不明
悪心 頻度不明
感覚減退 頻度不明
抑うつ気分 頻度不明
振戦 頻度不明
捻髪音 頻度不明
排便回数増加 頻度不明
斑状出血 頻度不明
末梢性ニューロパシー 頻度不明
末梢性浮腫 頻度不明
機能性心雑音 頻度不明
歯痛 頻度不明
歯肉出血 頻度不明
水疱 頻度不明
注入部位疼痛 頻度不明
注入部位紅斑 頻度不明
注入部位腫脹 頻度不明
洞性頻脈 頻度不明
浮動性めまい 頻度不明
浮腫 頻度不明
消化不良 頻度不明
潮紅 頻度不明
点状出血 頻度不明
無気肺 頻度不明
疲労 頻度不明
疼痛 頻度不明
痙攣 頻度不明
発熱 頻度不明
発熱性好中球減少症 頻度不明
発疹 5%以上
皮膚乾燥 頻度不明
皮膚炎 頻度不明
皮膚病変 頻度不明
皮膚色素過剰 頻度不明
眼刺激 頻度不明
眼痛 頻度不明
眼瞼下垂 頻度不明
眼瞼炎 頻度不明
眼窩周囲浮腫 頻度不明
着色尿 頻度不明
神経皮膚炎 頻度不明
筋痛 頻度不明
筋脱力 頻度不明
筋骨格硬直 頻度不明
紅斑 頻度不明
紅斑性皮疹 頻度不明
紅色汗疹 頻度不明
結膜出血 頻度不明
聴覚障害 頻度不明
肝機能異常(29.7%) 5%以上
肺胞出血 頻度不明
胃不快感 頻度不明
胃腸不快感 頻度不明
背部痛 頻度不明
胸水 頻度不明
胸痛 頻度不明
胸膜痛 頻度不明
胸部不快感 頻度不明
脾腫 頻度不明
腎機能障害 頻度不明
腫脹 頻度不明
腸運動過剰 頻度不明
腹痛 頻度不明
腹部膨満 頻度不明
蒼白 頻度不明
血中クレアチニン増加 頻度不明
血中ビリルビン増加 頻度不明
血中フィブリノゲン減少 頻度不明
血中マグネシウム減少 頻度不明
血中リン増加 頻度不明
血圧低下 頻度不明
血性下痢 頻度不明
血管炎 頻度不明
裂傷 頻度不明
貧血 頻度不明
起立性低血圧 頻度不明
軟便 頻度不明
重感 頻度不明
錯感覚 頻度不明
関節滲出液 頻度不明
関節痛 頻度不明
霧視 頻度不明
頭痛 頻度不明
頻呼吸 頻度不明
頻脈 頻度不明
顎痛 頻度不明
顔面浮腫 頻度不明
食欲不振 頻度不明
食欲減退 頻度不明
骨痛 頻度不明
骨髄生検異常 頻度不明
高カリウム血症 頻度不明
高ナトリウム血症 頻度不明
高マグネシウム血症 頻度不明
高血糖 5%以上
鱗屑性皮疹 頻度不明
鼓腸 頻度不明

薬物動態・作用機序

作用機序

18.1 作用機序

本剤の作用メカニズムは完全には解明されていない。三酸化二ヒ素はin vitroでヒト前骨髄球性白血病細胞NB4の形態学的変化、アポトーシスに特徴的なDNA断片化を引き起こす10)。また、三酸化二ヒ素は融合蛋白PML-RARαの分解を引き起こす11)。

薬物動態

16.1 血中濃度

  1. 16.1.1単回投与

米国のPhaseⅠ/Ⅱ試験で12例の再発又は難治性APL患者に本剤0.06~0.20mg/kg注1)を投与した時の総ヒ素の薬物動態パラメータは以下のとおりであった。

投与量
(mg/kg)
Cmax
(ng/mL)
Tmax
(hr)
t1/2
(hr)
AUC0-24hr
(ng・hr/mL)
0.15±0.04 27.4±9 3.2±1.9 100±72 450±119

平均値±標準偏差(n=12)

注1)本剤の承認された1回用量は0.15mg/kgである。

  1. 16.1.2反復投与

日本人14名の再発又は難治性APL患者での治療研究において、本剤0.15mg/kgを1日1回最大60日間反復投与(2時間の持続注入)した12名の患者でのヒ素の形態別(無機ヒ素及びメチル化ヒ素)血漿中濃度を分離定量した。初回投与後、無機ヒ素〔ヒ素(三価)+ヒ素(五価)〕は投与終了直後にCmax(平均22.6ng/mL;米国での測定値に近似)に達し、その後二相性に消失したが、代謝物のメチル化ヒ素(メチルアルソン酸及びジメチルアルシン酸)は遅れて血中に出現し、24時間まで徐々に上昇した。また、反復投与期間中の無機ヒ素のCmax値はほぼ一定で推移したが、メチル化ヒ素濃度は投与回数に伴って上昇した4)。無機ヒ素の薬物動態パラメータは以下のとおりであった。

Day Cmax
(ng/mL)
Tmax
(hr)
t1/2
(hr)
AUC0-t
(ng・hr/mL)
AUC0-∞
(ng・hr/mL)
初日注2) 22.6±11.4 1.9±0.7 15.4±9.2 138.6±32.4 211.8±55.1
4週後注3) 23.2±10.2 2.0±0.3 24.2±12.5 233.3±92.8 474.8±192.6

注2)平均値±標準偏差(n=11~12)

注3)平均値±標準偏差(n=6)

16.3 分布

ヒ素は血流の多い組織に迅速に分布し、肝臓、腎臓、脾臓等で高濃度となる。爪や毛髪には他の組織に比べてより長期にわたって残存するが、顕著な蓄積を示す臓器は認められない。

16.4 代謝

三酸化二ヒ素の代謝はヒ素(五価)←→ヒ素(三価)→メチルアルソン酸→ジメチルアルシン酸である5)。ヒ素(三価)は主に肝臓のメチルトランスフェラーゼで代謝される(ラット)6)。三酸化二ヒ素は、15μg/mLの濃度でヒト肝ミクロソームの主なP450分子種を阻害しなかった。

16.5 排泄

日本人の再発又は難治性APL患者に本剤0.15mg/kgを1日1回反復投与し、ヒ素の形態別の尿中排泄率(% of dose)を測定した。投与初日(0~24hr)の排泄率は、ヒ素(三価)とヒ素(五価)でそれぞれ約6%、メチルアルソン酸とジメチルアルシン酸で約3~5%であり、無機ヒ素及びメチル化ヒ素の総排泄率は約20%であった4)。